「悪魔の家」(横溝正史)

横溝作品はこうでなくてはいけません。

「悪魔の家」(横溝正史)
(「悪魔の家」)角川文庫

深い霧の夜、三津木俊助は、
何かに怯えている娘・弓枝を
家まで送る途中、
暗闇の中に浮かび上がる
不気味な首を目撃する。
彼女はそれを悪魔と呼んだ。
彼女は三津木に、義兄の身に
危険が迫っているとして、
家の調査を依頼する…。

由利・三津木シリーズの一篇ですが、
本作品は「白蠟少年」「猫と蝋人形」同様、
由利先生は登場せず、
三津木のみの探偵譚です。

本作品の読みどころ①
異様な登場人物たち

短篇でありながらも、そこは横溝作品。
登場人物は異様です。
朝鮮半島で何かやましいことのあった
気配のある悪徳富豪・蒲田喜久蔵。
その弟で傴僂で蠟のように
色白の青年・桑三。
アクマがきたアクマが来たと
泣き叫ぶ5歳になる喜久蔵の娘・鮎子。
そして現れた片脚のない謎の義足の男。
もちろん三津木に調査依頼をした
弓枝でさえ、何か尋常ならざる
雰囲気を湛えています。
横溝作品はこうでなくてはいけません。

本作品の読みどころ②
悪魔の正体…でも仕掛けはちゃち

作品冒頭で現れた、
暗闇に浮かぶ悪魔の顔。
三津木も目撃しているのですから、
幻や嘘ではありません。
まあ、この時代のトリックを考えると、
仕掛けはおおよそ予想がつくのですが、
読めば納得です。
戦前の横溝作品、
とくに由利・三津木ものは、
ジュヴナイルと見まごう
こうしたトリックは幾つも登場します。
横溝作品はこうでなくてはいけません。

本作品の読みどころ③
楽天家の等々力警部

後年、金田一耕助の
サポートをするときには
それなりに戦力になっている
等々力警部ですが、
戦前はまだまだ若手だったのでしょう。
他の由利・三津木作品でもそうですが、
まったく頼りありません。
単なる引き立て役に終始します。
その分、いつもは由利のアシスト訳の
三津木の存在感が
大きくなっているのです。
横溝作品はこうでなくてはいけません。

本作品の読みどころ④
最後にちょっとだけ謎を解く三津木

謎の多くは、終末に
事件関係者二名の自白から
明らかになります。
三津木は殺人を防ぐこともできず、
謎を解くこともせず、
事件の解決を迎えます。
しかし、最後の最後に彼は
大切な謎をしっかりと解き明かします。
それが後味の悪い結末に
繋がるのですが、それさえも
本作品の味わいどころの一つです。
横溝作品はこうでなくてはいけません。

「悪魔の家」の表題通り、
やはり何かに呪われたような
破滅を迎えた一家を描いた、
昭和13年発表の本作品。
後年の大作に結びつく要素を
多々持った作品です。

(2019.11.20)

Enrique MeseguerによるPixabayからの画像

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